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映画そもそも日記

映画のそもそも〜ってなんだろう?をベースにした日記

キセキ あの日のソビト

作品評

アイドル映画じゃない 

 松坂桃李菅田将暉のダブル主演だから、若い女の子のファンが目当ての作品だと思ってしまう。実在する、異色の人気ボーカルグループの実話がベースの話だから、音楽満載の派手な作りと想像してしまう。

 確かに冒頭のライブのシーンは派手なツカミなのだけれど、唐突に転換する次のシーンでは全く違う雰囲気に観客は心を掴まれてしまうのだ。そしてクレジットが流れ始めると、なんとも懐かしい日本映画の味わいだ。驚きとともにますます引きこまれてしまう。 

 

素晴らしい環境音 

 ここから、作品は一見、淡々と進む。普段テレビドラマしか観ない人たちにとってはテンポが遅く、歯がゆく感じるかもしれない。しかし、映画ファンにとっては結構シビレル演出だ。カメラの移動と転換を削いで、役者の演技をしっかりと捉えるやり方は日常と裏番組とCMの狭間から抜け出せないテレビドラマでは出来ない作りだ。お金を払い、劇場の椅子にしっかりと腰を据えた観客の目を裏切らない。目だけではない。耳をすませてほしい。音楽がテーマの一つである作品なのにBGMが極端に少ない。しかし、無音ではない。登場人物が演じる葛藤の裏に微かに聞こえる環境音。夕方を知らせる有線放送、街のざわめき、風が揺らす窓のがたつき。これらが画面に奥行きと流れを与え、リアルさを増し、役者の演技を際立たせる。映画ならではの美しい作りだ。 

 

主役は松坂桃李 

 人にはそれぞれ役割がある。夢とかの次元をこえて。そんなセリフが出てくるが、それもこの作品の大きなテーマの一つだろう。松坂桃李演じるJINは確かに挫折したのだろう。しかし、また違う形で夢を叶える道を見つけたのだ。努力は嘘をつかないとか、信じればかならず叶うなどというのは嘘っぱちだ。方向の間違った身にならない努力もあるし、取り返しのつかない間違いということも往々にしてある。それでも自らを信じて進むしかないのが人生なのだ。確かなのは歩みを止めさえしなければ必ず変化はあるし、そこに新たな夢を見出すこともできる。自らの人生を注ぐ対象はなんでもいい。重要なのはその対象にいかに、そしてどれだけ取り組めたか、なのだ。だから、この作品はダブル主演というよりも、松坂桃李主演の青春映画だ。久しぶりに、現実をしっかりと見つめた気持ちのいい青春映画だ。