ハローグッバイ
もう一つの映画らしさ
映画の魅力の一つを三浦つとむさんはたしか、その著書「芸術とはどういうものか」の中で、「経験したくてもできない経験をさせてくれる」ことだといっています。そういうとすぐに大災害や戦争など死に結び付く経験やヒーローが大活躍する異世界などを想像してしまいますが、そのような現実には経験したくない経験やあり得ない経験ばかりではなく、もっと身近で現実的でしかし絶対に経験できないものがあります。それは自分以外の他人の人生です。
「あの人やこの人はいったいどんな思いで生きているのだろう?」
そんな疑問はだれしも持つものです。そして、どんな人にもその人なりのドラマがあるものです。決して波乱万丈に描くのではなく、何気ない、けれどその人たちにとっては大切な心の変化を2時間前後の物語の中に凝縮してじっくりと見せることができるのも、劇場という特別な空間でお金を払って観る映画ならではの魅力です。この作品はそんな映画の魅力にあふれた秀作です。
学校では真逆の立場にある二人の女子高生が一人の認知症のおばあちゃんとの出会いから、それぞれの悩みと孤独をぶつけ合い、認め合っていく成長の物語です。
「友達って何だろう?」
「他人を想うってどういうことだろう?」
とは、中、高校生時代にはだれしも考えてしまうものですが、映画は言葉による答えではなく二人の女子高生と一人のおばあちゃんの触れ合いを通して、実感させてくれるのです。
この作品は地味ですがプロの技が光る作品です。アクションも、スペクタクルもありませんが、一時、日常から離れ、お金を払って劇場でじっくりと鑑賞するに値する、映画的作品です。
パンフレットに目を通しても原作は挙げられていないので、オリジナル脚本ではないかと思います。原作のストーリーを無理に凝縮したのではなく、初めから映画として創られた物語でしょう。原作物を否定しませんが、原作があったとしても原作に引きづられることのない作品が良いですね。そして本作のような良質なオリジナル作品がもっと増えてほしいものです。
私はこの作品をなぜ封切り時に観なかったのか、残念でなりません。 機会があるなら是非にとオススメできる作品です。